資格取得支援制度とは?会社負担で取れる資格と、辞めたら費用を返すのかを入社前に確かめる方法
「資格取得支援制度あり」「取得費用は会社負担」。求人でよく見るこの言葉は、法律で中身が決まった制度ではなく、会社ごとの約束です。全額負担なのか一部なのか、講習の日は仕事として扱われるのか、そして辞めたら費用を返すのか。制度の型、会社負担で取りやすい資格、返済の約束についての法律の考え方、入社前に書面で確かめる項目までを、法令と国の資料をもとに解説します。
- 25.9%社員の自己啓発の支援に
費用を出した企業(令和7年度調査) - 50.1%業務命令の研修に
費用を出した企業(同) - 第16条労働基準法の
違約金・賠償予定の禁止 - 20%一般教育訓練給付金
(上限10万円)
- 対象:未経験・転職を考えている人
- 資格取得支援のある求人あり
- 法令・国の統計で確認
- 更新:2026年9月
先に結論:資格取得支援制度は、会社が資格や免許の費用・時間を支える社内の仕組みで、中身は会社ごとに違います。フォークリフトや玉掛けのように、法律上その資格がないと任せられない仕事に必要なものは、会社負担の対象になりやすく、未経験から始める人の大きな助けになります。一方で「一定期間のうちに辞めたら費用を返す」という約束がついていることもあります。労働基準法第16条は「辞めたら違約金を払う」といった約束を禁じていますが、会社が費用を貸し付けて一定期間働けば返済を免除する形は、裁判例で事情ごとに判断が分かれています。入社前に、対象の資格、費用の範囲、返す場合の金額と期間を書面で確かめるのがいちばんの備えです。
この記事の目次
資格取得支援制度とは?法律ではなく「会社ごとの約束」
資格取得支援制度とは、社員が仕事に役立つ資格や免許を取るときに、会社が費用や時間の面で支える仕組みの総称です。受験料や講習費を会社が払う、合格したら祝い金を出す、取った資格に毎月の手当をつける、講習の日を出勤扱いにする。こうした支えをまとめて「資格取得支援制度」「資格取得支援あり」と呼んでいます。
最初に押さえておきたいのは、この制度は法律で中身が決まったものではないということです。雇用保険の教育訓練給付金のような国の制度とは違い、どの資格を、いくらまで、どんな条件で支えるかは、会社が就業規則や社内の規程で決めています。同じ「資格取得支援あり」でも会社によって中身がまったく違うのは、このためです。
ただし、法律がまったく関係しないわけではありません。労働基準法では、常時10人以上の労働者を使う会社がつくる就業規則に、職業訓練に関する定めをする場合はその事項を書くことになっています(第89条第7号)。入社のときに会社が示す労働条件にも、会社に定めがある場合は「職業訓練に関する事項」が含まれます(労働基準法施行規則第5条第1項第8号)。つまり、会社に資格支援のルールがあるなら、それは規程や書面で確かめられる労働条件の一部です。
「会社の命令で受ける」か「自分の意思で受ける」か
厚生労働省の能力開発基本調査は、会社が関わる学びを2つに分けています。1つは、業務命令に基づいて通常の仕事を一時的に離れて受ける教育訓練(研修)で、統計では「OFF-JT」と呼ばれます。もう1つは、働く人が職業に関する能力を自発的に開発し、向上させるために行う「自己啓発」です。
資格取得支援制度は、このどちらの形にもなります。会社の指示でフォークリフトの技能講習に行かせるなら前者に近く、社員が自分で選んだ資格の受験料を会社が補助するなら後者に近い形です。この違いは言葉の問題にとどまりません。講習の時間が仕事の時間になるか、辞めたときに費用を返す約束が認められるか、といった判断に関わってくるからです。詳しくは第7章で説明します。
この記事の立ち位置:研修の中身や独り立ちまでの流れの見抜き方は「未経験歓迎の求人で失敗しない研修制度の見抜き方」、福利厚生の欄全体の読み方は「求人の福利厚生欄の読み方完全ガイド」で扱っています。この記事は、資格取得支援制度そのものの仕組みと、辞めたときの費用の扱いに絞って掘り下げます。
支援の中身は7つの型に分けて読む
「資格取得支援あり」の一言の中には、いくつもの形が混ざっています。求人や規程を読むときは、次の7つの型のどれに当たるかを考えると、確かめるべきことがはっきりします。
| 型 | よくある書き方 | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| 1.全額会社負担 | 「取得費用は会社が全額負担」「自己負担0円」 | 対象の資格と費用の範囲 |
| 2.一部補助 | 「受験料を補助」「上限あり」 | 補助の割合と上限額 |
| 3.合格後に精算 | 「合格したら費用を支給」 | 不合格のときの扱い |
| 4.合格祝い金・報奨金 | 「合格祝い金あり」 | 金額と支給の時期 |
| 5.資格手当 | 「資格手当あり」 | 月額と支給が始まる時期 |
| 6.講習・試験の日の扱い | 「講習は勤務時間内」「受験日は出勤扱い」 | 出勤扱いか休日か |
| 7.貸付型 | 「一定期間勤務で返済免除」 | 返す金額、免除までの期間、月割りで減るか |
1〜6の型で確かめたいことの詳しい質問例は、「求人の福利厚生欄の読み方完全ガイド」で扱っています。資格手当が給与欄にどう書かれるかは「求人の給与欄の読み方完全ガイド」が参考になります。
貸付型:いちばん注意して読みたい型
7つ目の貸付型は、会社が費用を「貸した」形にして、一定期間働けば返済を免除するという約束です。「会社負担」と説明されていても、書面の上では貸付になっていることがあります。辞める時期によって返すお金が生じるため、この記事では第7章と第8章でこの型を詳しく読み解きます。
1つの会社に複数の型が同居していることもあります。たとえば「仕事に必須の免許は会社が全額負担、それ以外の資格は合格後に一部を補助、取った資格には手当」という組み合わせです。求人の一言だけで判断せず、資格ごとにどの型なのかを確かめるのが確実です。
会社はなぜ費用を出すのか|法律・人材育成・助成金の3つの理由
会社が資格の費用を出す理由を知っておくと、「なぜこの資格は全額で、あの資格は一部なのか」「なぜ返還の約束があるのか」が読みやすくなります。
理由1:その資格がないと、法律上その仕事を任せられない
労働安全衛生法第61条は、クレーンの運転などの危険な業務について、免許を受けた人や技能講習を修了した人などでなければ就かせてはならないと定めています(就業制限)。対象の業務は労働安全衛生法施行令第20条に並んでおり、たとえば次のようなものがあります。
- 最大荷重1トン以上のフォークリフトの運転(道路上の走行を除く)
- つり上げ荷重1トン以上の移動式クレーンの運転(道路上の走行を除く)
- 機体重量3トン以上の車両系建設機械(整地・運搬・積込み用、掘削用など)の運転(道路上の走行を除く)
- つり上げ荷重1トン以上のクレーン、移動式クレーンなどの玉掛けの業務
さらに第59条第3項は、危険または有害な業務に就かせるときに、事業者が特別の教育(特別教育)を行わなければならないと定めています。労働安全衛生規則第36条には、アーク溶接の業務、最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転、機体重量3トン未満の車両系建設機械の運転などが挙がっています。特別教育は、会社が厚意で費用を出す「支援」ではなく、法律で会社自身に実施が義務づけられた教育です。
運転の仕事でも同じ構造があります。道路交通法第86条により、タクシーのように旅客を運送する目的で普通自動車を運転するには普通第二種免許が必要です。つまり、ここまでに挙げた資格や免許は「あると有利」ではなく「ないとその仕事ができない」ものです。会社がその仕事をしてもらうために人を雇う以上、費用を出す理由がはっきりしています。
ただし運転免許には、受けられる時期の条件があります。第二種免許は、原則として21歳以上で、普通免許などを受けていた期間が通算3年以上ないと受験できません(同法第96条第5項。政令で定める教習を修了した人は19歳以上・1年以上)。中型免許も、原則20歳以上で、普通免許などの期間が通算2年以上必要です(第88条・第96条第3項。教習を修了した人は19歳以上・1年以上)。会社が費用を持つ場合でも、取れる時期は年齢と運転歴で決まります。
あわせて知っておきたいのが時間の扱いです。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示で業務に必要な学習を行っていた時間は労働時間に当たると示しています。会社の指示で受ける講習は、原則として仕事の時間だということです。
理由2:未経験の人を採って、自社で育てたい
厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査(常用労働者30人以上の企業が対象)によると、教育訓練に費用を出した企業は54.4%でした。内訳を見ると、業務命令による研修(OFF-JT)に費用を出した企業は50.1%、社員の自己啓発の支援に費用を出した企業は25.9%(前回は27.2%)です。また、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は80.1%にのぼります。
これらは資格に限らない研修全般や学びへの支出の割合で、資格取得支援制度そのものの普及率ではありません。それでも、30人以上の企業に限っても、研修や社員の学びにお金を出している企業は半分ほど、社員が自分で選ぶ学びまで支える企業は4社に1社ほどにとどまります。
理由3:会社向けの助成金がある
国には、会社向けの人材開発支援助成金という制度もあります。事業主が雇っている労働者に、職務に関連した専門的な知識や技能を身につけさせる職業訓練を計画に沿って行った場合などに、訓練にかかった経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されるものです。この助成金は会社が受け取るもので、働く人が申し込むものではありませんが、会社が資格取得に投資しやすい背景の一つです。
会社負担で取りやすい資格・免許|職種別の早見表
会社負担になりやすいのは、第3章で見たように「その仕事に欠かせない資格」です。職種ごとに代表的なものを並べます。どれが会社負担になるかは会社によって違うので、あくまで目安として見てください。
| 職種 | 代表的な資格・免許 | 性格 |
|---|---|---|
| 製造・倉庫・梱包 | フォークリフト運転技能講習、玉掛け技能講習、クレーン関係の講習・免許、アーク溶接の特別教育 | 就業制限の対象。特別教育は会社に実施の義務がある |
| 建設・設備工事 | 車両系建設機械の技能講習、玉掛け、移動式クレーン、技能検定(配管技能士など)、施工管理技士 | 就業制限の対象に加え、腕を証明する国家検定 |
| トラック・ダンプ | 準中型・中型・大型免許、けん引免許、フォークリフト | 乗る車の大きさで必要な免許が決まる |
| タクシー・バス | 普通第二種免許、大型第二種免許 | 旅客を運ぶには第二種免許が必要 |
| 介護 | 介護職員初任者研修、実務者研修、介護福祉士 | 段階的に取る。手当や任される仕事に反映 |
技能講習や特別教育は、入社してすぐの時期に会社の段取りで受けることがよくあります。このうち特別教育は、法律(労働安全衛生法第59条第3項)で会社が行うことになっている教育なので、本人が費用を払ったり、辞めたときに返したりする約束がつく性格のものではありません。一方、施工管理技士や介護福祉士のように取得までに実務経験が関わる資格は、入社数年後の目標になります。「入社直後に取るもの」と「経験を積んでから取るもの」を分けて考えると、会社の説明が聞きやすくなります。
腕を証明する資格としては、国家検定の技能検定があります。厚生労働省によると、技能検定は働くうえで身につける、または必要とされる技能の習得レベルを評価する国家検定制度で、令和8年3月3日時点で133職種の試験があり、合格すると「技能士」と名乗ることができます。配管、建築大工、機械加工など、現場の仕事に直結する職種が多く含まれます。
会社負担で取っても、資格はあなたのもの
運転免許、技能講習の修了、技能検定の合格は本人に与えられるもので、会社を辞めても使えます。この点は、費用の返還をめぐる裁判でも判断の材料になっています。第7章で紹介するコンドル馬込交通事件では、二種免許は個人に付され退職後も使えるという本人の利益があることが、取得費用を本来は本人が負担すべきものとした理由の一つとされました。「辞めても資格が残る」ことは働く側の利点であると同時に、返還の約束が認められる方向の事情にもなりうる、ということです。
職種ごとの資格の取り方は、「フォークリフト免許で人生が変わる?取得方法・費用・年収アップの現実」「タクシードライバーになるには?二種免許・未経験からの始め方」「配管工は未経験でもなれる?仕事内容・年収・資格」で詳しく解説しています。
資格取得支援のある求人を探す
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資格取得支援のある求人を見る資格取得支援制度のメリット|お金・時間・道筋の3つ
1.お金:自分では払いにくい費用を会社が持つ
教習所に通う運転免許や何日も通う講習は、費用が大きくなりがちです。会社が費用を持ってくれれば、「資格がないから応募できない」という壁がなくなります。ただし「入社後取得OK」は取る時期の話で、費用を会社が持つとは限りません。誰が費用を払うのかは必ず確かめましょう。
2.時間:仕事の一部として学べる
講習を勤務時間内に受けられる会社なら、休日を削らずに資格が取れます。
3.道筋:何をどの順で取ればよいかがわかる
会社はその仕事に必要な資格の順番を知っており、「まず玉掛けと小型の重機、数年後に技能検定」のように道筋を示してくれます。
デメリットと落とし穴|「タダで取れる」の裏側を知る
資格取得支援制度そのものが悪いわけではありません。ただし、中身を知らずに入社すると、あとで「思っていたのと違う」となりやすい点があります。代表的なものを並べます。
返還の約束があると、辞める時期によって費用を返すことになり、転職の判断が縛られやすい。
講習や試験が休日に組まれ、振替や手当がないと、実質的に休みが減る。
ほかに、対象が会社の選んだ資格に限られる、取っても手当や任される仕事が変わらない、といったこともあります。いちばん大きいのは、1つ目の「辞めにくくなる」です。求人の「自己負担0円」は受けるときにお金がかからないという意味で、辞めたときの扱いまでは書かれていないことがほとんどです。支援の大きさと返還の条件は、セットで確かめてください。
会社負担の資格、辞めたら返済?労働基準法と裁判例の考え方
ここからは、資格取得支援制度でいちばん気になる「辞めたら費用を返すのか」について、法律と裁判例の考え方を整理します。この章は一般的な考え方の紹介で、個別の結論は約束の中身と事情によって変わります。
労働基準法第16条:「辞めたら違約金」は禁止
労働基準法第16条は「賠償予定の禁止」として、使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない、と定めています。「3年以内に辞めたら罰として30万円払う」といった約束は、この条文に真正面からぶつかります。
中央労働委員会が公表している解説資料は、この条文の趣旨を、違約金や損害賠償額をあらかじめ決めておくことで労働者の退職の自由を実質的に制限する「足止め策」を禁止することにある、と説明しています。
お金の精算に関わる条文はほかにもあります。第17条は、前借金その他労働することを条件とする前貸しの債権と賃金を相殺することを禁じています。第24条は、賃金は全額を支払わなければならないとし、一部を差し引けるのは法令に別段の定めがある場合か、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数を代表する者)との書面による協定がある場合としています。会社が一方的に最後の給料から費用を差し引くことは、この全額払いの原則とぶつかる点を覚えておきましょう。
「貸したお金を返す」形は、事情ごとに判断される
一方、会社が資格の費用を「貸し付け」、一定期間働けば返済を免除する、という約束(貸付契約・金銭消費貸借契約)は、形の上では労働契約とは別の約束です。この形が第16条に違反するかどうかについて、中央労働委員会の資料は、裁判例は次のような点を総合的に考えて判断していると整理しています。
- 研修・留学費用に関する労働契約とは区別された金銭消費貸借(お金の貸し借り)の約束があるか
- 研修や留学への参加が、本人の自由な意思・自発的なものか
- 研修や留学が、どの程度業務に関わるものか(業務性の程度)
- 返還を免除する基準が合理的か
- 返す額や返し方が合理的か
同じ資料は、対象の研修が「職業訓練の一環」なのか「本人が負担すべき費用」なのかが判断の基準とされ、貸付の目的がどれだけ業務に関わるかの認定が決め手になる傾向がある、と述べています。会社の指示で受けさせた仕事のための講習なら会社が負担すべき費用に近く、本人が自分の希望で取った資格なら本人が負担すべき費用に近い、という考え方です。
裁判例では何が分かれ目になったか
| 裁判例 | どんな費用か | 判断 |
|---|---|---|
| 新日本証券事件 (東京地裁 平成10年9月25日) | 会社が業務命令として派遣した海外留学の費用。研修後の勤務を確保する目的で、期間内に辞めた人への制裁の実質があった | 第16条に違反 |
| 長谷工コーポレーション事件 (東京地裁 平成9年5月26日) | 応募も留学先の選択も本人の自由な意思に基づく留学の費用 | 第16条が禁じる違約金などに当たらない |
| 和幸会事件 (大阪地裁 平成14年11月1日) | 看護学生への修学資金の貸付。将来の労働契約の締結と退職の自由を縛る目的とされた | 第16条に違反し無効 |
| コンドル馬込交通事件 (東京地裁 平成20年6月4日) | タクシー運転手の普通第二種免許の取得費用。返す額は20万円未満、免除までの勤務期間は2年 | 第16条に違反しない |
いずれも中央労働委員会の解説資料での紹介に基づく要約です。4つ目のコンドル馬込交通事件は、資格の費用を考えるうえで特に参考になります。判決は、二種免許の取得は業務に欠かせず、そのための研修は会社の業務と具体的な関連があるとしつつ、免許は個人に付され会社を辞めても使えるという個人的な利益があることから、取得費用は本来は取得を希望する本人が負担すべきものとしました。そのうえで、返す額が20万円に満たず、免除までの期間が2年であったことから、本人の自由な意思を不当に縛るものとは言えない、と判断しています。
つまり、「仕事に必要な資格だから、返還の約束は必ず無効」とは言い切れません。金額が過大でないか、縛る期間が長すぎないか、本人の希望で受けたのか会社の命令なのか。こうした事情の組み合わせで結論が変わります。
あっせんの例:入社4か月で辞めた観光バスの運転手
中央労働委員会の資料には、話し合い(あっせん)で解決した例も載っています。観光バスの運転手として採用された人が、仕事に必要な大型第二種免許を会社の全額負担で取りました。その後4か月で自己都合の退職を申し出たところ、会社から免許の取得費用の一部と、在職中に起こしたバスの物損事故の修理代の全額を請求されたという事案です。
免許の費用について、会社は「少なくとも1年は勤める前提で全額を負担した」と主張し、本人は「会社に言われて取ったものなので会社が負担すべきだ」と主張しました。最終的には、労働者が会社に解決金を支払う形で決着しています。あっせんでは、労働者に対し、在職中に携帯電話を使いながらバスをバックさせて起こした事故について、裁判になればいくらか賠償を命じられる可能性があることを示して譲歩を求めました。一方で会社には、裁判で争っても使用者責任があるので請求額の全額回収は難しいと説き、労働者の支払い能力を考えた額での決着を促しています。解決金の額は伏せられており、免許の費用分と事故の分の内訳も公表されていません。
資料の解説では、一定期間勤めれば返済を免除するという費用の貸し借りの合意がそもそも成り立っていたか、成り立っていたとしても第16条に違反しないかが、1つ目の争点とされています。約束があったかどうか自体が争いになりうるので、働く側としては、入社時に費用の扱いを書面で確かめておくことが自分を守ることにつながります。
辞めること自体は止められない
返還の約束があっても、辞めること自体を禁じることはできません。期間の定めのない雇用(いわゆる正社員の多く)について、民法第627条は、当事者はいつでも解約の申入れができ、申入れの日から2週間を経過すると雇用が終了すると定めています。返還の約束があるときに問題になるのは、辞めてよいかどうかではなく、お金をどう精算するかです。なお、契約期間の定めがある雇用では別のルールがあります。
困ったときの相談先:返還を求められて納得できないときは、都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などにある「総合労働相談コーナー」に相談できます。厚生労働省によると、全国378か所に設置され、予約不要・無料で、労働者と事業主のどちらからの相談も受けています。
返還の約束はここを読む|入社前・申込み前のチェックリスト
返還の約束は、就業規則、資格取得支援の規程、講習を申し込むときの申請書や誓約書、会社との貸付の契約書などに書かれています。求人票には書かれていないことがほとんどなので、面接や内定のときに「資格取得支援の規程を見せてもらえますか」と頼むのが近道です。読むときは、次の項目を確かめてください。
- 対象になる資格・講習の名前と、会社が払う費用の範囲
- 返還が必要になる場面(自己都合の退職だけか、会社都合・病気・けがのときはどうか)
- 返す金額の上限(実際にかかった費用までか、それ以上の額が書かれていないか)
- 免除までの期間(何か月・何年働けば返さなくてよいか)
- 勤めた期間に応じて月割りで減るか
- 返し方(一括か分割か、給料から差し引くと書かれていないか)
- その講習は会社の指示で受けるものか、自分の希望で受けるものか
月割りで減る約束なら、こう読む
「勤めた期間に応じて返す額が減る」約束は、辞める時期ごとの負担が計算しやすく、働く側にとってわかりやすい形です。架空の例で見てみましょう。
| 例:費用20万円・24か月勤めれば免除・月割りで減る場合 | 返す額 |
|---|---|
| 6か月で辞めた場合(残り18か月分) | 15万円 |
| 12か月で辞めた場合(残り12か月分) | 10万円 |
| 18か月で辞めた場合(残り6か月分) | 5万円 |
| 24か月以上勤めた場合 | 0円 |
この表は説明のための計算例で、実際の金額や期間は会社によって違います。月割りの定めがなく「期間内に辞めたら全額」となっている場合は、辞める時期によって負担が大きく変わるので、特に注意して読みましょう。
慎重に考えたいサイン:会社の指示で受ける仕事に必須の講習なのに返還の約束がついている、実際の費用を超える額が書かれている、免除までの期間が長い、給料から差し引くと書かれている、法律で会社に実施が義務づけられた特別教育の費用まで返すよう求められている。こうした約束は、第7章で見た判断のポイントに照らして、立ち止まって考える価値があります。わからない点は、署名する前に会社に説明を求めてください。
書面をもらうタイミング
労働条件のうち、契約期間、働く場所と仕事の内容、始業・終業の時刻や休日、賃金、退職に関する事項などは、書面などで示すことが会社に義務づけられています。職業訓練に関する事項は、会社に定めがある場合に示すべき労働条件ですが、書面の交付までは義務になっていません。口頭の説明だけで済まされやすい部分なので、自分から「規程か書面で確認させてください」と頼むのが確実です。
自分で払うなら教育訓練給付金|会社の支援との関係
資格の費用を自分で払う場合に使える国の制度が、雇用保険の教育訓練給付金です。厚生労働大臣が指定した講座を受けて修了すると、本人が払った費用の一部がハローワークから支給されます。
| 種類 | 支給額 | 条件を満たした場合の上乗せ |
|---|---|---|
| 一般教育訓練 | 払った費用の20%(上限10万円) | なし |
| 特定一般教育訓練 | 払った費用の40%(上限20万円) | 資格を取って就職した場合などは50%(上限25万円) |
| 専門実践教育訓練 | 払った費用の50%(年間上限40万円) | 資格を取って就職した場合などは70%(年間上限56万円)。さらに修了後の賃金が受講開始前より5%以上上がった場合は80%(年間上限64万円。令和6年10月1日以降に受講を始めた人が対象) |
一般教育訓練の場合、受講を始める日に雇用保険に加入していた期間が3年以上(初めて受ける人は1年以上)あることなどが条件で、申請は修了した日の翌日から1か月以内にハローワークで行います。特定一般と専門実践は、受講前にキャリアコンサルティングを受け、受講開始の2週間前までに手続きをする必要があります。
会社負担と給付金は、同じ費用に重ねて使えない
教育訓練給付金の対象は、受講者本人が教育訓練の実施者に支払った費用です。ハローワークの案内には、事業主などが受講に伴って手当を支給する場合、そのうち入学料や受講料に充てられる額は、教育訓練経費から差し引いて申請しなければならないと書かれています。会社が全額を払えば給付金の出番はなく、会社が一部を補助した場合は、自分が払った部分について条件を満たせば給付金を使える可能性がある、という関係です。
自己負担が少ない。返還の約束の有無と中身を確かめることが前提。
会社との約束に縛られない。費用の一部は自分持ちで、給付の条件を満たす必要がある。
資格を取りながら働ける建築・土木の求人
重機や玉掛けの講習、技能検定など、働きながら資格を増やしていける現場の仕事が並んでいます。資格の支援とあわせて、仕事内容や休日も見比べてみてください。
建築・土木の求人一覧を見る求人票と面接での確かめ方|掲載求人の書き方から読む
最後に、実際の求人を読むときのポイントです。マン天に掲載されている3件の求人を例に、資格取得支援の書かれ方と、そこから何を確かめればよいかを見てみます(内容は2026年9月時点の求人ページの表記です)。
例1:業務に必要な資格を全額負担(製函梱包スタッフ)
愛知県春日井市で梱包用の木枠・木箱をつくる株式会社浅井製材所の求人には、「業務に必要な資格は入社後に会社全額負担で取得可能」とあり、対象としてフォークリフト・クレーン・玉掛が挙げられています。学歴不問・業種・職種経験不問で、「未経験入社がほとんど」とも書かれています。
支援の対象が、第3章で見た就業制限に関わる、仕事に直結する資格に絞られている型です。確かめたいのは、入社後どの時期にどの順番で受けるかと、講習の日が出勤扱いになるかです。給与は日給月給制と書かれているので、講習の日の扱いが月の給料にどう響くかも聞いておくと安心です。
例2:自己負担0円で幅広い資格(配管工事職人)
名古屋市港区に拠点を置き、名古屋市内を中心に上下水道の配管工事を行う株式会社セントラルの求人では、「資格・免許取得支援制度(全額負担)」として、中型免許、配管技能士、玉掛け技能講習、車両系建設機械運転者、移動式クレーン運転士などが挙げられ、「自己負担金0円」と書かれています。管理職や指導者を目指したい人も歓迎されています。応募には普通自動車運転免許が必要です。
ここでは、入社直後に取る講習と、経験を積んでから挑戦する技能検定(配管技能士)が同じ欄に並んでいます。確かめたいのは、それぞれを入社何年目くらいに取る人が多いか、中型免許のように費用が大きいものも同じ条件か、の点です。中型免許には普通免許などの保有期間の条件があるので、自分がいつ受けられるかもあわせて聞いておきましょう。
例3:二種免許は全額負担、福利厚生欄には「一部支援」の記載も(タクシードライバー・新卒向け)
名古屋市でタクシー事業を営む宝交通株式会社の求人では、「第二種運転免許の取得費用は会社が全額負担」とある一方、福利厚生の欄には「資格取得支援制度(一部支援)」と「資格手当」も並んでいます。「全額負担」と「一部支援」がそれぞれどの資格や費用に当たるのかは、求人ページからはわかりません。1つの求人に書き方の違う支援が並んでいるときは、資格ごとの範囲を面接で確かめるのが確実です。
なお、この求人は新卒向けで、募集対象は短大・専門・大学を2027年・2028年に卒業予定の人(学部・学科不問)です。普通自動車免許(AT限定可)が必要です(在学中に取得予定でも可)。中途採用の人は条件が異なると書かれているので、転職で応募を考える人は、中途の条件を会社に問い合わせてください。第二種免許には第3章で見た年齢と運転歴の条件があるため、入社してすぐに乗務できるとは限りません。入社後いつ頃に二種免許を取り、いつから乗務できるのかを確かめておきましょう。二種免許の取り方は「タクシードライバーになるには?」で解説しています。
3件に共通すること:どの求人も、支援の対象と「会社負担」であることは書かれていますが、辞めたときの扱いまでは求人ページに書かれていません。書かれていない部分は、面接や規程で確かめるものと考えましょう。
面接では「返還の規程」を見せてもらう
費用の範囲や講習日の扱いといった基本の質問は、「求人の福利厚生欄の読み方完全ガイド」の質問例がそのまま使えます。この記事で加えたいのは、「取得後に辞める場合、費用の返還についての決まりはありますか。規程を見せていただけますか」という一問です。見せてもらえたら、第8章のチェックリストに沿って読みます。
返還について聞くのは気が引けるかもしれませんが、「長く働くつもりだからこそ、条件を正しく知っておきたい」と前置きすれば失礼にはなりません。面接での質問の組み立て方は「転職面接の完全攻略ガイド」、求人ページ全体の見方は「応募前に見るべき求人ページのチェックポイント」も参考にしてください。
会社負担で資格を取りながら働ける求人(愛知県)
仕事に必要な資格や免許を会社の負担で取れる求人です(宝交通は2027・2028年卒業予定の方が対象の新卒向け求人です)。対象の資格と、辞めたときの費用の扱いは、面接で規程を見せてもらって確かめてください。
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株式会社浅井製材所|愛知県春日井市
数少ない木枠梱包会社という”希少性”と⻑年の実績【株式会社浅井製材所】
梱包用木枠・木箱の製造/フォークリフト・クレーン・玉掛の資格取得は会社全額負担
月給218,000〜262,000円以上(日給月給制)
マンガで仕事を見る -

株式会社セントラル|愛知県名古屋市(勤務地は港区)
AIに置き換えられない職人業【株式会社セントラル|配管工事職人】
主に名古屋市内の上下水道配管工事/中型免許・配管技能士などの取得を全額負担/寮完備
月給300,000円〜500,000円(各種手当あり)
応募には普通自動車運転免許が必要です。
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宝交通株式会社|愛知県名古屋市
創業80年以上の安定企業(1951年設立)!【名古屋の宝タクシー|ドライバー|宝交通株式会社】
タクシードライバー/第二種運転免許の取得費用は会社が全額負担/固定給+歩合制
月給300,000円〜(新卒入社の場合。専門・短大卒は270,000円〜)
短大・専門・大学を2027・2028年に卒業予定の方が対象(中途は条件が異なる)。普通自動車免許(AT限定可・在学中に取得予定も可)が必要。
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2026年9月時点の募集内容です。最新の条件は求人ページでご確認ください。
よくある質問
資格取得支援制度とは何ですか?
社員が仕事に役立つ資格や免許を取るときに、会社が受験料や講習費、講習の日の時間、合格後の手当などで支える社内の仕組みです。法律で中身が決まった制度ではないため、対象の資格や負担の範囲は会社ごとに違います。求人の「資格取得支援あり」だけでは中身がわからないので、面接や規程で確かめてください。
会社負担で取った資格の費用は、辞めたら返さないといけませんか?
約束の中身によって変わります。労働基準法第16条は、辞めたら違約金を払うといった約束を禁じています。会社が費用を貸し付け、一定期間働けば返済を免除する形については、受講が業務命令か本人の希望か、返す額や免除までの期間が妥当かなどを総合して判断されます。入社前や申込み前に、返還の条件を書面で確かめておくことが大切です。
講習や試験の日は、仕事の時間として扱われますか?
参加することが業務上義務づけられている研修や講習なら、その時間は労働時間に当たると厚生労働省のガイドラインで示されています。本人の希望で受ける資格の試験は、会社の定めによっては休日に受けることもあります。出勤扱いになるか、休日に受ける場合に振替や手当があるかは会社ごとに違うので確かめてください。
教育訓練給付金と会社の資格支援は、同じ講座に両方使えますか?
教育訓練給付金の対象は、受講した本人が支払った費用です。会社が受講料を全額払えば、給付の対象になる費用は残りません。会社から受講料に充てる手当を受けた場合は、その分を差し引いて申請することになっています。会社が一部だけ補助する場合は、自分が払った分について、条件を満たせば給付金を使える可能性があります。
会社負担で取った資格は、転職しても使えますか?
運転免許、技能講習の修了、技能検定の合格などは本人に与えられるもので、会社を辞めても資格そのものはなくなりません。裁判例でも、二種免許は個人に付され退職後も使えることが、費用の負担を考える事情の一つとされています。ただし社内だけで通用する認定は持ち出せないので、国家資格や公的な講習かどうかも確かめておくと安心です。
まとめ|支援の大きさと返還の条件は、セットで確かめる
この記事の要点
- 資格取得支援制度は法律で中身が決まった制度ではなく、会社ごとの約束。支援には全額負担・一部補助・合格後の精算・祝い金・資格手当・講習日の扱い・貸付型の7つの型がある。
- フォークリフトの運転(最大荷重1トン以上)、移動式クレーンの運転や玉掛け(いずれもつり上げ荷重1トン以上)などは、法律で資格がないと就けない業務に関わるため、会社負担になりやすい。参加が業務上義務づけられた講習の時間は、労働時間に当たる。
- 労働基準法第16条は「辞めたら違約金」という約束を禁じている。
- 費用の貸付と一定期間勤務での免除という形は、業務性、本人の意思、金額と期間の妥当性などで判断が分かれる。
- 返還の約束は、対象、費用の範囲、返す金額の上限、免除までの期間、月割りの有無、返し方を書面で確かめる。
- 自分で払うなら教育訓練給付金を使える場合があるが、会社が払った分には使えない。
- 公的な資格は会社を辞めても自分に残る。社内だけの認定かどうかも確かめる。
資格取得支援制度は、未経験から新しい仕事に挑戦する人にとって心強い仕組みです。自分ひとりでは踏み出しにくい資格も、会社の支えがあれば働きながら取っていけますし、取った資格は会社を離れても自分の力として残ります。
ただ、「会社負担」の一言には、講習の日の扱いや辞めたときの費用の精算といった、書かれていない約束がついていることがあります。気になる求人を見つけたら、資格ごとにどの型の支援なのかを考え、面接では規程を見せてもらえるか聞いてみてください。条件を正しく知ったうえで選べば、資格を1つずつ増やしていく日々を安心して積み重ねていけます。
関連記事
参照元ソース
- e-Gov法令検索「労働基準法」(第15条、第16条、第17条、第24条、第89条)
- e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」(第5条)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(第59条、第61条)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」(第20条)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」(第36条)
- e-Gov法令検索「道路交通法」(第86条、第88条、第96条)
- e-Gov法令検索「民法」(第627条)
- 中央労働委員会「個別労働紛争の調整事例④ 労働者の資格取得費用の負担及び損害賠償責任の制限」(PDF)
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(主なポイント・PDF)
- 厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」(令和8年7月31日)
- 厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要」(PDF)
- 厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査 用語の説明」(PDF)
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」
- 厚生労働省「技能検定制度について」
- ハローワークインターネットサービス「教育訓練給付金」
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「一般教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」(PDF)
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
※数値と条文は各公式サイトの2026年9月時点の掲載内容です。能力開発基本調査は常用労働者30人以上の企業・事業所が対象です。裁判例は中央労働委員会の資料での紹介に基づいて要約しており、個別の事案の結論は約束の中身と事情によって異なります。給付金の条件や求人の内容は変わることがあります。最新の情報は各出典元と求人ページでご確認ください。


