採用マンガ×ミスマッチ対策
採用では、会社の魅力を伝えることが大切です。 しかし、良い面だけを強調すると、入社後に「思っていた仕事と違った」というギャップが生まれることがあります。 そこで役立つのが、仕事の大変さと乗り越え方をマンガで伝える採用手法です。
この記事の結論
仕事の大変さを伝える採用マンガでは、つらい場面だけを描くのではなく、 「なぜ大変なのか」「会社がどう支えるのか」「乗り越えた先に何があるのか」 まで一つの物語として見せることが重要です。
- 良い面だけでなく、仕事の現実も伝える
- 大変さを精神論や根性論で片づけない
- 教育、設備、制度など会社側の対策を描く
- 応募者が自分に合う仕事か判断できる情報を入れる
- マンガの内容と実際の労働条件を一致させる
01
仕事の大変さを伝える採用が必要な理由
採用ページでは、「未経験歓迎」「アットホームな職場」「やりがいのある仕事」といった、 前向きな言葉が多く使われます。
もちろん、自社の魅力を伝えることは必要です。しかし、仕事には忙しい時間帯や覚えることの多さ、 身体的な負担、顧客対応の難しさなど、入社前に知っておきたい現実もあります。
職場情報に関するデータ
約6割
厚生労働省の「求職者等への職場情報提供に当たっての手引」では、 就職・転職前に得た情報と、働き始めてから知った職場環境との間に、 自身にとって不都合なギャップがあった人は全体の約6割とされています。
採用時に大変さを伝えないまま入社してもらうと、応募数や採用数は確保できるかもしれません。 しかし、その後にギャップが判明すれば、早期離職や配属後の不満につながる可能性があります。
魅力だけを伝えた場合
- 働きやすそうだと感じて応募する
- 高い期待を持って入社する
- 想定外の大変さに直面する
- 「聞いていた話と違う」と感じる
現実も伝えた場合
- 大変な部分を事前に理解する
- 自分に合うか考えて応募する
- 心構えを持って仕事を始める
- 想定内の課題として対処しやすくなる
採用の目的は、応募者を一人でも多く集めることだけではありません。 仕事内容を理解したうえで、自社に合う人から応募してもらうことが重要です。
02
RJPとは
RJPとは、Realistic Job Previewの略で、日本語では 「現実的な仕事情報の事前開示」などと訳されます。
会社や仕事の良い面だけではなく、厳しい面や負担も含めて応募者へ伝え、 入社前に仕事の実態を理解してもらう採用の考え方です。
企業が応募者を一方的に選ぶのではなく、応募者にも情報を提供し、 その会社や仕事が自分に合うかを判断してもらう。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の論文では、RJPについて、 組織や仕事の悪い情報も含めて誠実に伝える考え方と説明されています。 先行研究では、過剰な期待の緩和、応募者による自己選択、役割の明確化などの効果が整理されています。
RJPは「悪いところを並べる方法」ではない
RJPは、会社の欠点を一方的に並べたり、応募者を怖がらせたりする方法ではありません。 また、「きついけれど根性があれば大丈夫」と精神論で押し切るものでもありません。
伝えるべきなのは、次の一連の情報です。
どのような大変さがあるのか
なぜその負担が発生するのか
会社はどう対策しているのか
経験によりどう成長するのか
03
なぜマンガが大変さの説明に向いているのか
仕事の大変さは、文章や数字だけでは具体的に想像しにくい情報です。 たとえば「繁忙期は忙しい」と書かれていても、どのくらい忙しいのか、 誰がどのようにフォローするのかまでは伝わりません。
場面と感情を同時に見せられる
マンガでは、作業場所、時間帯、周囲の状況、先輩との会話、 主人公の戸惑いなどを一つの場面として表現できます。
「忙しい」という抽象的な言葉を、 「複数の注文が重なる」「確認事項が増える」「先輩が優先順位を指示する」 といった具体的な出来事に置き換えられます。
未経験者の視点で説明できる
採用担当者や現場社員にとって当たり前のことでも、未経験者には分からないことがあります。 新人を主人公にすれば、応募者と近い視点から仕事内容を説明できます。
マンガで表現できる流れ
- 戸惑い:新人が初めて仕事の難しさに直面する
- 理解:先輩から、難しさが生まれる理由を教わる
- 支援:研修やチームのフォローを受ける
- 成長:以前できなかったことができるようになる
大変さとやりがいの因果関係を描ける
大変さを単独で掲載すると、求職者にはマイナス情報として受け取られやすくなります。 一方、マンガなら、大変な作業が顧客の満足や本人の成長にどうつながるのかを物語として見せられます。
ただし、無理に感動的な話にする必要はありません。 大切なのは、実際の仕事に基づいた納得できる流れをつくることです。
04
仕事の大変さを伝えることで期待できる効果
応募者の自己選択を助ける
自分に向いている環境か、許容できる負担かを応募前に判断しやすくなります。
入社後のギャップを抑える
事前に知っていた大変さであれば、「想定外の問題」ではなく、準備すべき課題として捉えやすくなります。
企業への信頼につながる
都合の良い情報だけでなく、現実も説明する姿勢は、採用に対する誠実さを伝える材料になります。
面接で話を深めやすい
マンガを共通資料にすることで、「この場面をどう感じましたか」など、具体的な対話ができます。
注意: 大変さを伝えれば、必ず離職率が下がるわけではありません。 賃金、労働時間、人間関係、教育体制など、実際の職場に課題がある場合は、 情報発信だけでなく職場環境そのものの改善が必要です。
05
マンガで伝えるべき仕事の大変さ
伝える内容は、会社全体の一般論ではなく、 採用する職種・部署・勤務地の実態から整理します。
| 大変さの種類 | 確認する内容 | マンガでの表現例 |
|---|---|---|
| 身体的な負担 | 立ち仕事、重量物、屋外作業、暑さ・寒さ | 作業環境と休憩、安全装備、複数人作業を描く |
| 時間的な負担 | 繁忙期、早朝勤務、夜勤、残業 | 忙しい時期と通常期の違いを示す |
| 技術的な難しさ | 覚える手順、専門知識、資格、判断力 | 新人が段階的に仕事を覚える過程を描く |
| 精神的な負担 | ミスへの緊張、クレーム、責任の重さ | 相談先や確認体制まで含めて表現する |
| 人間関係の難しさ | チーム連携、顧客対応、他部署との調整 | 実際の会話や情報共有の場面を描く |
| 働き方の特徴 | 出張、転勤、シフト、現場移動 | 1日の流れや移動範囲を具体化する |
大変さには具体的な条件を添える
「忙しい」「体力が必要」といった表現だけでは、人によって受け取り方が変わります。 可能な範囲で、頻度、時間、重量、人数、時期などを添えましょう。
-
曖昧:繁忙期は残業があります。
具体化:○月から○月は業務量が増え、配属部署では残業が発生する場合があります。 -
曖昧:体力を使う仕事です。
具体化:屋外での立ち作業が中心です。重量物は原則として複数人または機械を使って運びます。 -
曖昧:覚えることが多い仕事です。
具体化:入社後は安全ルール、道具の名称、基本手順の順番で学び、最初の○カ月は先輩が同行します。
06
応募を遠ざけないストーリー構成
仕事の大変さを伝えるときは、ネガティブな場面から始めても構いません。 ただし、その場面だけで終わらせないことが重要です。
基本となる6段階の構成
-
STEP 1
応募者と近い主人公を設定する
未経験者、異業種からの転職者、子育て中の社員など、採用したい人物像に近づけます。
-
STEP 2
仕事に興味を持った理由を描く
給与だけでなく、ものづくりへの興味、地域貢献、技術習得などの動機を示します。
-
STEP 3
現実的な壁に直面させる
忙しさ、技術の難しさ、体力面など、取材で確認した実際の課題を描きます。
-
STEP 4
会社側の支援を見せる
先輩の同行、研修、マニュアル、安全対策、相談制度などを具体的に示します。
-
STEP 5
成長後も仕事の現実を残す
簡単にすべて解決するのではなく、工夫しながら対応できるようになった姿を描きます。
-
STEP 6
読者に判断材料を渡す
向いている人、働き方、労働条件、募集要項へつなげ、自分に合うか考えてもらいます。
物語のゴールは「感動」ではなく「理解」
採用マンガの目的は、主人公の成功物語で読者を感動させることだけではありません。 読後に「この仕事は大変な部分もあるが、自分なら挑戦できそうだ」 または「自分が希望する働き方とは違う」と判断できることが重要です。
07
業種別のマンガ企画例
建設・設備工事
大変さ:屋外作業、天候、早朝集合、安全確認、技術習得
描き方:暑い日の現場を描くだけでなく、休憩、空調服、声かけ、作業中止基準などの対策まで表現します。
運送・物流
大変さ:時間管理、荷物の取り扱い、道路状況、早朝・夜間勤務
描き方:時間に追われる演出だけでなく、無理な運行を防ぐ仕組みや配車担当との連携を描きます。
製造業
大変さ:立ち仕事、反復作業、品質基準、安全ルール
描き方:小さな違いを見逃さない難しさと、確認表やダブルチェックの仕組みをセットで見せます。
介護・福祉
大変さ:身体介助、夜勤、利用者とのコミュニケーション、記録業務
描き方:職員個人の献身だけで解決せず、チーム連携、福祉用具、研修、夜勤体制を具体的に描きます。
営業職
大変さ:目標管理、断られる経験、顧客対応、数字への責任
描き方:契約獲得だけを成功として描かず、先輩との振り返りや提案改善の過程を見せます。
飲食・接客
大変さ:ピーク時の忙しさ、立ち仕事、クレーム対応、複数業務の同時進行
描き方:混雑場面とともに、役割分担、助けを求める合図、責任者への引き継ぎを描きます。
08
制作前の取材方法
現実的な採用マンガを作るには、採用担当者だけで企画を完成させないことが大切です。 実際にその仕事をしている社員へ取材しましょう。
取材する社員
- 入社1~3年程度の若手社員
- 未経験から入社した社員
- 教育を担当する先輩社員
- 配属予定部署の責任者
- 可能であれば退職者対応や定着支援に関わる担当者
取材で確認したい質問
入社前後のギャップについて
- 入社前に想像していた仕事と違った部分はありますか。
- 入社前に知っておきたかったことはありますか。
- 最初の1カ月で特に困ったことは何ですか。
仕事の大変さについて
- 体力的・精神的に大変な場面はいつですか。
- 繁忙期と通常期では何が違いますか。
- 新人がつまずきやすい作業は何ですか。
会社の支援について
- 困ったときは誰に相談できますか。
- 研修や同行期間はどのくらいありますか。
- 負担を軽減するためにどのような設備や制度がありますか。
成長とやりがいについて
- 以前は難しかったが、今はできるようになったことは何ですか。
- 仕事を続けて良かったと感じた具体的な出来事はありますか。
- どのような人がこの仕事に向いていると思いますか。
数字は部署単位で確認する
厚生労働省の手引では、ミスマッチ防止の観点から、 企業全体の平均だけでなく、所属予定部署やプロジェクト単位など、 より実態に近い情報を併せて示すことが望ましいとされています。
残業時間、休日出勤、研修期間などを掲載する場合は、 対象期間、対象者、算出方法を明確にしましょう。
09
避けたい表現と失敗例
NG1:大変さを美談に変えすぎる
長時間労働や無理な働き方を、「仲間のため」「お客様の笑顔のため」と正当化してはいけません。 改善すべき問題と、仕事の性質上避けにくい難しさを分けて考える必要があります。
NG2:「慣れれば大丈夫」で終わらせる
何に慣れる必要があるのか、どのくらいの期間がかかるのか、 会社がどのように支援するのかを説明しましょう。
NG3:厳しさを誇張する
現場を必要以上に過酷に見せると、本来は適性がある人まで応募を避ける可能性があります。 一部の特殊な事例ではなく、通常の働き方を中心に描きます。
NG4:主人公だけが特別に成功する
才能や根性だけで問題を解決すると、一般的な応募者が自分を重ねにくくなります。 教育や周囲の協力によって成長する過程を描きましょう。
NG5:現在は存在しない制度を描く
理想の職場をマンガ化するのではなく、現在利用できる制度や実際の運用を描きます。 今後導入予定の場合は、予定であることを明示してください。
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求人広告として使用する際の注意点
採用マンガは仕事内容を分かりやすく伝える手段ですが、 正式な募集要項や労働条件通知書の代わりにはなりません。
求人情報とマンガの内容を一致させる
職業安定法では、求人や労働者募集に関する情報について、 虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならないとされています。
マンガ内で「基本的に残業はない」「希望日に休める」「すぐに昇給できる」 などと表現する場合は、実際の制度や運用と一致しているか確認が必要です。
SNSで直接募集する場合の表示
厚生労働省は、インターネットやSNSなどの広告で直接労働者を募集する場合、 募集広告に次の6情報を表示するよう案内しています。
- 募集主の氏名または名称
- 住所
- 連絡先
- 業務内容
- 就業場所
- 賃金
マンガの最終ページや投稿本文に必要事項を掲載し、 詳細な募集要項へ誘導する設計にしましょう。
公開前の確認体制をつくる
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制作後の活用方法と効果測定
採用マンガは、採用サイトに掲載するだけでなく、 応募前から面接、入社後まで一貫して活用できます。
| 採用段階 | 活用方法 | 目的 |
|---|---|---|
| 認知 | SNS、Web広告、採用イベント | 仕事への興味を持ってもらう |
| 理解 | 採用サイト、求人ページ | 仕事内容と大変さを理解してもらう |
| 応募前 | 会社説明会、カジュアル面談 | 不安や疑問を具体化してもらう |
| 選考 | 面接時の確認資料 | 応募者との認識をすり合わせる |
| 入社後 | 研修、オンボーディング | 仕事の全体像と相談先を再確認する |
応募数だけで判断しない
大変さを詳しく伝えると、応募数が一時的に減る可能性があります。 しかし、自社と合わない人からの応募が減ったのであれば、必ずしも失敗とはいえません。
次の指標を組み合わせて確認しましょう。
- 採用ページの読了率
- マンガ閲覧後の募集要項クリック率
- 応募完了率
- 面接参加率
- 内定承諾率
- 入社1カ月・3カ月・6カ月後の定着率
- 入社後アンケートでの「想定とのギャップ」
面接で使える質問
- マンガの中で、特に印象に残った場面はどこですか。
- 大変そうだと感じた部分はありましたか。
- その場面で、自分ならどのように対応すると思いますか。
- 入社前に、さらに確認しておきたいことはありますか。
正解を求めるのではなく、応募者が仕事内容をどう理解したか確認するために使用します。
採用の「本当」を、伝わる物語に
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まとめ|大変さを伝えることは、応募者を大切にすること
採用では、応募者を増やすために、つい仕事の良い面を中心に伝えたくなります。 しかし、入社後まで見据えるなら、大変な部分も判断材料として提供する必要があります。
採用マンガなら、文章だけでは説明しにくい現場の状況や新人の感情、 先輩の支援、成長の過程を一つの物語として伝えられます。
大切な5つのポイント
- 仕事の良い面と大変な面を偏りなく伝える
- 大変さが発生する場面や頻度を具体化する
- 会社の対策や教育体制をセットで描く
- 現場社員への取材をもとに制作する
- 応募者が自分に合うか判断できる内容にする
大変さを隠さず伝えることは、応募を諦めさせるためではありません。 応募者が納得したうえで一歩を踏み出せるようにする、誠実な採用コミュニケーションです。


